何かいろいろ創作物を入れていこうと思います。広告変更してみた。
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「風邪ひきますよ」
わずかな灯りと共に聞こえた声に、ちらりと視線を向ける。
紫が、肩掛けを手に近づいてきたところだった。
どうぞ、と手渡され、礼を言って肩に羽織った。
じわりとした暖かさに、体が冷えていたことに気づく。
「……お前も飲むか?」
傍らの机に置いてある酒の瓶を勧めれば、彼は「頂きます」と言って空いている椅子に腰掛けた。
グラスが触れる微かな音。
それを聞きながら、視線を前に戻す。
視線の先には、暗く黒く森が広がっていて、お世辞にも視界が良いとは言えなかった。
木々の輪郭すら曖昧なほどの、暗闇。
「泣かないんですか」
暫く続いた静寂の中、紫が囁くように言った。
「泣かねぇよ」
忌々しそうに答え、ため息を吐く。
「……覚悟はしてたからな。泣いたって、仕方ない。もう終わったことだ」
淡々と呟く声は、まるで自分に言い聞かせているようだった。
その事に気がつき、顔をしかめる。
紫はそれ以上何も言わず、また沈黙が降りた。
ふと、口を開く。
「何か用事があったんじゃねぇのか?」
「いえ? 寒そうなライを見つけたものですから」
片眉を上げて紫を見ると、彼は何が楽しいのかにこにことこちらを見ていた。
「あー……悪かったな」
がしがしと頭を掻きながら言うと、紫は首を傾げた。
「何がです?」
「……何でもねぇ」
ぼそりと吐き捨て、杯の中身を呷る。
冷えた酒精が喉を灼く。
いつもと同じ酒が、酷く味気ない気がした。
「月が、綺麗ですね」
言われて顔を上げれば、空はひとつの明かりすらない曇天のままで。
「月なんて出てねぇよ」
怪訝そうに言えば、紫の笑い声が返ってきた。
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