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「歌が、歌えるのか」

 深い深い森の中、崩れ落ちた廃墟の石柱に腰掛けて弦を爪弾いていると、背後からそんな声が聞こえた。
 草を踏む音はしなかった。
 けれど、微かな衣擦れの音がした。
 答えずに一度、弦を弾く。
「……歌が歌えるのなら、歌ってくれないか」
 声は平静を装っていたが、滲み出るように疲れが聞き取れた。
 暫くの沈黙のあと、彼がぽつりと言った。
「俺の歌は呪いの歌だ。死にたくなくばやめておけ」
 耳に心地よい低音が、背後の気配を制す。
 声はそれ自体が音楽のように響いたが、囁きほどの声音だったので少し掠れていた。

「……構わない」
 背後の声が呟く。
 同時に、どさりと重いものの落ちる音がして声が低い位置に来た。
「……死に際の、頼みだ……」
 僅かに声が震えている。

 彼は一音、高く弾くと、おもむろに歌いだした。
 その途端、空間が鮮やかな色で満たされた。
 その歌は低く流れるように、その場に浸透していく。
 音と歌が溢れ、それに圧倒されて他の全ての音が掻き消える。

 歌は、祈りだ。

 最後の一節を歌い終え、竪琴の音が消えた時、背後の気配は完全に息絶えていた。
 彼はため息をひとつ落として立ち上がると、荷物を持って立ち上がった。
 慣れた手つきで、けれど大事そうに竪琴を抱え、彼はその場から歩き去った。

 廃墟の傍らには死者が一人。
 木漏れ日を浴びながら、石柱に凭れるように横たわっている。
 身体は傷だらけだったが、その顔は何処か幸せそうに微笑んでいた。

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プロフィール
HN:
沖縞 御津 または 逆凪。
趣味:
絵描き文書き睡眠。
自己紹介:
のんびり人生万歳。
1日20時間ほど寝れるんじゃないかと最近本気で思う。
でもこの頃睡眠時間が1~6時間と不規則気味。ていうか足りない。
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