忍者ブログ
何かいろいろ創作物を入れていこうと思います。広告変更してみた。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 歩を進める。
  ゆっくりと、けれど確信を持って。

 ざく、ざく、と響く音は聞こえていたけれど、聞いてはいなかった。

 ただ、前へ。

「何処へ行くの」
 聞きなれた声。
 いつもは明るいその声は、今は平坦に響いた。
 歩みは止まらない。
「止まれ。エディウス」

 それは命令。
 けれど。
 止まらない。
 止められない。

 その、意思が無い。

 進むんだ。
 この先へ。

「……エディウス」
 吐息に乗せた声が、すぐ後ろで聞こえた。
 途端、体が動かなくなる。
「行ってはいけないよ。……分かっているだろう?」
 当たり前の、事実を言うだけの言葉に、けれどその場を動けない。
 視線は前を向いたまま。

 その、先には。

「その先に、何も無いってことを」

 分かっている。
 知っている。
 目の前は、虚空だ。
 あと一歩進めば、この体は虚無に飲まれる。
 遥か昔、世界には果てがあるのだと教わったように。

「……おいで。エディウス」
 再度、彼が名を呼ぶ。
 振り返る、その視界はぼんやりと滲んで、見慣れたはずの姿を隠していた。


「ごめんね」
 このまま消えたいと思っていただろうに、引き止めたのは自分だ。
 あの虚空の向こうに彼がいるかもしれないと、僅かでも思っていたのか。
 いないことは、誰より良く彼が知っていただろうに。
 それでも。
「僕は僕の都合で、君をこの世界に留まらせてしまう」
 別の出会いの為に。
 世界の為に。

 そして、別れの為に。

 昏々と眠る赤毛の彼を一瞥して、ルシェイドはきつく目を閉じた。

 視界が回る。
 否。
 回っているのは本当に俺か。
 自分の立っている場所さえ不確かで、俺はその場で踏鞴を踏んだ。

 思考がまとまらない。
 体が重い。
 何だろうこの吐き気は。

「ルベア」
 名前を呼ばれた。
 ここ何日かで随分聞きなれた声だ。
 重い目蓋を無理やりこじ開けると、目線より随分下に茶色い頭が見えた。

 獣の、顔。
「……オルカーン」
 確かめるように彼の名を呼び、背後の幹に背を預ける。
「やっぱり休んでいこう。顔色が酷く悪いよ」
 落ち着かなさげに尻尾を上下させ、オルカーンが言う。
「……問題ない」
「駄目だ。次に休めるところに行くまで体が保つかわかんないだろ?」
 きっぱりと言い、押し付けるように身体を摺り寄せる。
 その勢いに抗えず、ルベアはその場に腰を下ろした。

 立っているよりは少しマシになった視界で、オルカーンが警戒するように周囲を見回す。
「何かいるのか」
 一通り見た後で、オルカーンは首を傾げて尻尾を一度だけ振った。
「この近くには誰もいないようだよ。何かあったら起こすから、それまで寝てなよ」
 そう言って身体を押し付ける。
 ふかふかしたその手触りに、ルベアはゆっくりと意識を手放した。
 脱力した身体を視線だけで振り返って、オルカーンはこっそりとため息をつく。

 こんなになるまで無理しなくても良いだろうに。
 彼は、他人に頼ろうとはしない。
 それは知り合って程なく、気づいたことだった。

「まぁ、こういう時ぐらいは頼って欲しいけどね」
 ぽつりと呟き、背中の温かさを感じながらオルカーンも目を閉じた。

 何度絶望しただろう。
 何度呪っただろう。

 光の差さないこの牢獄で、彼は一人狂気と戦い続ける。

 誰を罵れば良い。
 誰を憎めば良い。
 記憶も曖昧になって尚、怨嗟の声を囁く。

 誰に、何に。

 何故此処に居るのかも忘れたまま。

 その暗闇に光を差し込んだのは、周囲の闇を溶かし込んだかのような黒髪の、女性だった。
 久しぶりの日の光を浴びながら、彼はただ呆然と自分を暗闇から解放した女性を見ていた。

 すらりとした肢体、整った目鼻立ち。
 一般的に美麗な顔をしているのに、能面を貼り付けたような無表情がその女性を人形のように見せていた。
 彼女は彼が立ち上がるのを見ると、表情を変えずに踵を返した。
 縺れた足は容易に動かず、彼が外に出て視線を上げると人影は何処にもなかった。




練習用に描いて、一時期Pixivに載せてたやつ。

番傘が描きたくて、どのキャラが良いかと思いついたのが菊でした。
とりあえずすべてフリーハンドなのでまっすぐなものが無いのは気にしない。

後ろの竹は何となくで描いたけど割とそれっぽく見えるから良いやとかそんなんです。

 降り立ったのは、浅い水辺。
 人工的な地面を踏みしめ、裾まで濡らしながら、俺は荒れる息を整えた。
 薄い暗闇が自分の姿を隠してくれる。
 見つかるわけにはいかない。
 まだ。

 目の前には回廊のようなもの。
 池さえ跳び越せば、すぐに降り立てる。

 肩で息をしていると、回廊の向こう端から見知った顔が近づいてくるのが見えた。
 見つけた。
 その安堵は、すぐに消えてしまう。
 ゆっくりと近づく彼の表情は何かを押し殺しているかのようだった。
 辛そうな、その表情。

 声を、かけようと口を開ける。
 寸でで、彼の横に人影を見つけて口を噤む。

 回廊の際まで来た彼と目が合う。
 彼が自分を認めた。

 瞬間、横の男が指を鳴らした。
 目の前の池から高く水音を響かせて現れたそれに、彼が視線を向ける。
 言葉もなく、彼の目尻が微かに震えた。

 驚愕。
 衝撃。
 そして。

 ゆっくりと、けれど確実に、その瞬間彼の中の何かが死んだのが分かった。
 目から光をなくしていく彼と、現れたモノに。

 なす術も無く。

 俺はただ叫んでいた。

[50] [51] [52] [53] [54] [55] [56] [57] [58] [59] [60
«  Back :   HOME   : Next  »
カレンダー
02 2025/03 04
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
プロフィール
HN:
沖縞 御津 または 逆凪。
趣味:
絵描き文書き睡眠。
自己紹介:
のんびり人生万歳。
1日20時間ほど寝れるんじゃないかと最近本気で思う。
でもこの頃睡眠時間が1~6時間と不規則気味。ていうか足りない。
最新記事
創作絵  (01/05)
創作文_異界  (05/04)
創作文  (04/20)
創作絵  (05/24)
創作文_神界  (02/23)
広告
PR

Copyright(C)2009-2012 Mitsu Okishima.All right reserved.
忍者ブログ [PR]