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「――レイン!!」
 叫んで、手を伸ばそうとした。
 手は、動かなかった。
(ああ)
 利き手である左手は剣を握っていて。
(この腕は)
 反対側の手は感覚が無く。
(もう動かないんだ――……)
 走り寄るのは間に合わない。
 オルカーンはかなり離れたところにいて、いくら彼が早くても確実に間に合わないのが見て取れた。

 レインは。
 全身に無数の細かい切り傷を負ったまま、よろめきながらこちらに向かってこようとした。
 けれど、彼の元にまでは届かない。
 脇腹を抉った傷口から、夥しい血が流れ出していた。
 普段から白い肌は、青白いを超えて土気色に近い。

 彼はふわりと笑ってその場に崩れ落ちた。

「レイン!」
 悲痛な叫びにオルカーンが振り返る。
 傍らに剣を放り出し、触れようと伸ばした指の先で、レインが崩れていった。
「ルベアッ!」
 間近まで走ってきたオルカーンが、迫り来る刃をはじく。
「ぼんやりするな! ……!?」
 オルカーンの叱咤する声をどこか遠くに聞きながら、傍らに転がったままだった剣を手に取る。
 振り向きざま、迫っていた影を切り捨てた。
 その勢いのまま、剣を振るう。
 麻痺した思考の片隅で、あぁ、やはり彼は人ではないのだなとぼんやり考えていた。


「……ルベア! もういい!」
 オルカーンの叫び声にはっとして立ち止まる。
「……あ、あぁ……」
 ぼんやりと、周囲を見回した。

 動くのは自分たちだけだった。
 残りは、食われたか、逃げたかのどちらかだった。
 足元に転がった死体を見てため息をつく。
「……くそっ!」
 苦々しげに吐き捨て、剣に付いた血糊を払い落とす。
 先ほど彼が倒れた場所には何もない。

 彼の服も、流した血も、何も。

「行こう。此処もまた戦闘になる」
 いつもと違う硬い声でオルカーンが促す。
 ふ、と軽く息を吐く。
「……分かってる。行くぞ」
 徐々に近づく喊声を聞きながら、彼らは足早にその場を離れた。

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プロフィール
HN:
沖縞 御津 または 逆凪。
趣味:
絵描き文書き睡眠。
自己紹介:
のんびり人生万歳。
1日20時間ほど寝れるんじゃないかと最近本気で思う。
でもこの頃睡眠時間が1~6時間と不規則気味。ていうか足りない。
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