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 土を踏むかすかな音に顔をあげる。
 この洞窟に近づく者は滅多にいない。
 その、珍しい音。
 迷い込んだにしては足音は一定だ。
 そしてかすかに鼻に付く臭い。

 音も立てずに立ち上がると、足音の方へと進む。
 足音が近づいたところで、小さな石をひとつ、放り投げた。
 からん、と乾いた音が洞内に木霊する。
 足音はぴたりと止まり、次いで声が聞こえた。
「白雨」
 自身に呼びかけるその声に、肩の力を抜いて姿を現す。
 わずかに気配が動き、足音がはっきりとこちらへ向かってきた。
「足音を立てるなんて珍しいね。氷雨」
 すぐ近くで、足音が止まる。
 ツンと鼻に付く臭いが、彼から漂ってきているのは確実だ。

 錆を含んだ、鉄の臭い。
 けれど、怪我をしている様子はない。
 彼は一言も発さず、頬に手を伸ばして触れた。
 輪郭を確かめるようなその動きに、怪訝そうに眉を寄せる。
 触れていた手が目蓋に達したとき、自らの意思に反して肩がぴくりと震えた。
 氷雨が今触れている目蓋の下に、眼球はない。
「白雨」
 再度の呼びかけに、吐息で応える。
「お前の、目ェ盗ったって吹聴してた輩がいたから、同じ目にあわせて来たんだ……」
 触れている手が、かすかに震えている。

 氷雨にこの暗がりは見通せない。
 それを承知で、白雨は微笑んだ。

「……馬鹿だな。お前が、傷を負うことはないのに」
「傷じゃァ、ねェよ」
 目蓋に触れていた手を頬に移し、氷雨が呟く。
 自分にはもう光が見えない。
 けれど。

 微笑んだまま、白雨は頬の手に自分の手を添えた。

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プロフィール
HN:
沖縞 御津 または 逆凪。
趣味:
絵描き文書き睡眠。
自己紹介:
のんびり人生万歳。
1日20時間ほど寝れるんじゃないかと最近本気で思う。
でもこの頃睡眠時間が1~6時間と不規則気味。ていうか足りない。
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