何かいろいろ創作物を入れていこうと思います。広告変更してみた。
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読みかけの本を片手に、土手を歩く。
道の片側に咲いた桜の花はほぼ満開で、花びらが地面をうっすらと染めていた。
ふと足を止めて桜の木を見上げる。
この道の中で一際大きい、桜の木だった。
薄紅色の中に一瞬だけ黒い色が見えた、と思った瞬間、強い風が吹いた。
「!」
思わず目をかばった、その耳元で男の声が響いた。
「またお客さんかね?」
慌てて目を開けると、舞い狂う桜色の空間の中で黒い和服の男が笑った。
「惑わされたは主が最初ではないからの。……ゆるりとしていくと良い。此処では全てが曖昧ゆえにな」
差し招くように、男が手を差し出す。
その手は黒服に反するように白く、陶器のようだった。
躊躇いながら、男のほうに歩を進める。
男はただ微笑んだまま、動こうとしない。
「貴方の……名前は?」
手の届く位置で立ち止まり、不意に浮かんだ問いを口にする。
男はきょとんとし、ついで笑い出した。
「ははは、すまんの。久しく名など聞かれなかったからの……。――儂は稲座という」
「サクラ――。綺麗な名だ」
名を繰り返し、差し出された手を取る。
男の手は冷やりとした、けれど紛れも無い、人の手だった。
道の片側に咲いた桜の花はほぼ満開で、花びらが地面をうっすらと染めていた。
ふと足を止めて桜の木を見上げる。
この道の中で一際大きい、桜の木だった。
薄紅色の中に一瞬だけ黒い色が見えた、と思った瞬間、強い風が吹いた。
「!」
思わず目をかばった、その耳元で男の声が響いた。
「またお客さんかね?」
慌てて目を開けると、舞い狂う桜色の空間の中で黒い和服の男が笑った。
「惑わされたは主が最初ではないからの。……ゆるりとしていくと良い。此処では全てが曖昧ゆえにな」
差し招くように、男が手を差し出す。
その手は黒服に反するように白く、陶器のようだった。
躊躇いながら、男のほうに歩を進める。
男はただ微笑んだまま、動こうとしない。
「貴方の……名前は?」
手の届く位置で立ち止まり、不意に浮かんだ問いを口にする。
男はきょとんとし、ついで笑い出した。
「ははは、すまんの。久しく名など聞かれなかったからの……。――儂は稲座という」
「サクラ――。綺麗な名だ」
名を繰り返し、差し出された手を取る。
男の手は冷やりとした、けれど紛れも無い、人の手だった。
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