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耳障りな呼吸音。
痛いほど心臓が脈打っているのに、血液が足らなくて頭痛がする。
手足はまるで中の骨を抜いてしまったかのようにだらりとして、ぴくりとも動かない。
痛む瞼をこじ開けて視線をさまよわせる。
視界はぼやけていたが、ぼろ布のように転がるものが見えた。
強く、瞼を閉じる。
昨日まで笑ってた。
ふらりと立ち寄っただけの自分を、厭わずにもてなしてくれた。
もう、誰かに笑いかけることも無い。
ごほ、と液体を吐く。
ぬるりとした生ぬるい感触に、吐き気がした。
きっと床は血だまりだろう。
かなりの量を吐いたから。
途切れそうな意識をつないで、指先を動かす。
声を出すのは難しそうだから、あとは指くらいしかない。
回復用の陣を描こうとして、動きを止めた。
このまま。
何もしなかったら、死ねるだろうか。
目を、閉じる。
細く、長く息を吐くと、体が少し楽になった気がした。
深く深く、沈みこんでいく。
何処にもいけないと分かっていても。
ただこの脱力感に、身をゆだねていられたら。
意識の隅で、砂利を踏む重い足音を聞いた気がした。
ぱたぱたと、水の音で目が覚めた。
目を開けると、見知らぬ子供が無表情に見下ろしていた。
視線が合うと、子供は軽い足音を立ててそこから立ち去った。
入れ替わりに重い足音が響く。
「起きたか」
錆びた、声だ。
反射的にそう思った。
重々しい雰囲気のその男は、暗い眼をして一言、言った。
「生きてたのはお前だけだ」
それを聞いたとたん、胸に諦めにも似た黒い感情が沸き起こった。
硬く目を瞑ると、重い足音が遠ざかる音がした。
いくつもの顔が脳裏に浮かぶ。
涙は、出ない。
出せるわけが無い。
結局、どれだけ死の淵に立たされても、確実に致命傷は負わず、こうして救いの手がある。
自らを刃で貫いてみたところで、体には傷はできない。
死なずの呪い。
それが、自分にかかった呪いなのだから。