何かいろいろ創作物を入れていこうと思います。広告変更してみた。
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何度絶望しただろう。
何度呪っただろう。
光の差さないこの牢獄で、彼は一人狂気と戦い続ける。
誰を罵れば良い。
誰を憎めば良い。
記憶も曖昧になって尚、怨嗟の声を囁く。
誰に、何に。
何故此処に居るのかも忘れたまま。
その暗闇に光を差し込んだのは、周囲の闇を溶かし込んだかのような黒髪の、女性だった。
久しぶりの日の光を浴びながら、彼はただ呆然と自分を暗闇から解放した女性を見ていた。
すらりとした肢体、整った目鼻立ち。
一般的に美麗な顔をしているのに、能面を貼り付けたような無表情がその女性を人形のように見せていた。
彼女は彼が立ち上がるのを見ると、表情を変えずに踵を返した。
縺れた足は容易に動かず、彼が外に出て視線を上げると人影は何処にもなかった。
何度呪っただろう。
光の差さないこの牢獄で、彼は一人狂気と戦い続ける。
誰を罵れば良い。
誰を憎めば良い。
記憶も曖昧になって尚、怨嗟の声を囁く。
誰に、何に。
何故此処に居るのかも忘れたまま。
その暗闇に光を差し込んだのは、周囲の闇を溶かし込んだかのような黒髪の、女性だった。
久しぶりの日の光を浴びながら、彼はただ呆然と自分を暗闇から解放した女性を見ていた。
すらりとした肢体、整った目鼻立ち。
一般的に美麗な顔をしているのに、能面を貼り付けたような無表情がその女性を人形のように見せていた。
彼女は彼が立ち上がるのを見ると、表情を変えずに踵を返した。
縺れた足は容易に動かず、彼が外に出て視線を上げると人影は何処にもなかった。
「あっはは! 彼が何て言ったと思う?」
笑い声が響く。
足元の小石を蹴りつけて、少年は肩を震わせて笑っていた。
「化け物、だってさ! 言うに事欠いて!」
くすくす、と耐え切れないというように笑い転げる少年は、顔に笑顔を貼り付けたままその場でくるりと一回転した。
「僕が、化け物に見えるのかねぇ? 見た目で言うなら普通の人だろうに。あァ、それとも、僕が今此処に立っているからかな?」
言って、少年は両手を広げる。
まるで舞台に立っているように、その動作はどこか大げさだ。
示された場所は、何も無い荒野だった。
家の一軒も無い。
枯れ掛けた木が、わずかに立っているばかりの荒野。
く、と少年が再び口の端をあげる。
一歩を、踏み出す。
「まぁでも、きっと彼の言葉は間違いじゃないよね」
目の前には。
かつて町があった。
それなりに栄えた場所だった。
いろんな建物が建っていた。
いろんな人がいた。
それも。
今は跡形も無い。
たった一週間で、そこは更地になってしまった。
かつて世界の何処よりも高いとされる建物が建っていた場所に立って、少年が立ち止まった。
いつの間にか少年の顔からは笑みが消えていた。
立ち尽くしたまま、自分の両手を見下ろす。
「……僕はもう、僕が人間なんて思ってない。彼の言うとおりの、ただの化け物なんだよ……」
ぽつりと呟いた声に、笑みの響きは何処にも無い。
ただ虚ろに、それは響いた。
誰もいないこの場所に。
何も無い此処に。
「……それでも、僕は人間だと、君は言うのかな。……ディリク」
ぐ、と拳を握り締め、少年が呟く。
此処に居ない、青年の姿を思い浮かべながら。
笑い声が響く。
足元の小石を蹴りつけて、少年は肩を震わせて笑っていた。
「化け物、だってさ! 言うに事欠いて!」
くすくす、と耐え切れないというように笑い転げる少年は、顔に笑顔を貼り付けたままその場でくるりと一回転した。
「僕が、化け物に見えるのかねぇ? 見た目で言うなら普通の人だろうに。あァ、それとも、僕が今此処に立っているからかな?」
言って、少年は両手を広げる。
まるで舞台に立っているように、その動作はどこか大げさだ。
示された場所は、何も無い荒野だった。
家の一軒も無い。
枯れ掛けた木が、わずかに立っているばかりの荒野。
く、と少年が再び口の端をあげる。
一歩を、踏み出す。
「まぁでも、きっと彼の言葉は間違いじゃないよね」
目の前には。
かつて町があった。
それなりに栄えた場所だった。
いろんな建物が建っていた。
いろんな人がいた。
それも。
今は跡形も無い。
たった一週間で、そこは更地になってしまった。
かつて世界の何処よりも高いとされる建物が建っていた場所に立って、少年が立ち止まった。
いつの間にか少年の顔からは笑みが消えていた。
立ち尽くしたまま、自分の両手を見下ろす。
「……僕はもう、僕が人間なんて思ってない。彼の言うとおりの、ただの化け物なんだよ……」
ぽつりと呟いた声に、笑みの響きは何処にも無い。
ただ虚ろに、それは響いた。
誰もいないこの場所に。
何も無い此処に。
「……それでも、僕は人間だと、君は言うのかな。……ディリク」
ぐ、と拳を握り締め、少年が呟く。
此処に居ない、青年の姿を思い浮かべながら。
その闇に、一瞬ちらりと胸を過ぎったものがある。
けれどそんなものはすぐに消えた。
荒れ狂うほどの力の波と、絶望的なまでの感情に飲み込まれて。
苦しい、と思った。
飲み込まれたくなくてずっと耐えてた。
なのにそんな努力をあざ笑うかのように、胸中は塗りつぶされた。
黒く、暗い虚無の闇に。
その心情を表すように、周囲を闇が包んでも、彼は止まらなかった。
止まれなかった。
「――アルファル!」
目の前の彼が悲痛な声で叫ぶ。
ざわりと憎悪が揺らぐ。
衝動に突き動かされるまま足を踏み出して、
ふと、止まった。
視線の先には、闇の中にありながらうっすらとそれ自体光を放つような、桜の花弁があった。
瞬間、フラッシュバックのようにいくつもの情景が過ぎた。
虚無の闇を吹き飛ばすほどの圧倒的なその量の奥で、見慣れていた、人の姿を見た気がした。
----
愕然と立ち止まった彼が、何かを呟いた。
それは誰かの名前のようだったが、彼のいる場所は少し遠くて、それは聞き取れなかった。
けれどそんなものはすぐに消えた。
荒れ狂うほどの力の波と、絶望的なまでの感情に飲み込まれて。
苦しい、と思った。
飲み込まれたくなくてずっと耐えてた。
なのにそんな努力をあざ笑うかのように、胸中は塗りつぶされた。
黒く、暗い虚無の闇に。
その心情を表すように、周囲を闇が包んでも、彼は止まらなかった。
止まれなかった。
「――アルファル!」
目の前の彼が悲痛な声で叫ぶ。
ざわりと憎悪が揺らぐ。
衝動に突き動かされるまま足を踏み出して、
ふと、止まった。
視線の先には、闇の中にありながらうっすらとそれ自体光を放つような、桜の花弁があった。
瞬間、フラッシュバックのようにいくつもの情景が過ぎた。
虚無の闇を吹き飛ばすほどの圧倒的なその量の奥で、見慣れていた、人の姿を見た気がした。
----
愕然と立ち止まった彼が、何かを呟いた。
それは誰かの名前のようだったが、彼のいる場所は少し遠くて、それは聞き取れなかった。
これが夢なら良かった。
そうすれば、目が覚めるんだって思う事ができたのに。
そう思うのは何度目だろう。
徐々に無くなっていく体温を感じながら、彼は硬く目を閉じて俯く。
握り締めた手のひらはもうすでに硬くなりはじめ、まるで人形のようだった。
朝には笑ってた。
一緒に町に行こうと約束をした。
それが果たされないと、知っていたけれど。
それでも、一緒に行きたかった。
「ごめん」
絞り出すような声で、彼が囁く。
硬く閉じた目は乾いて、涙のひとつも出てこない。
泣きたい、のに。
「ごめんね」
彼は繰り返す。
目の前で握り締めた手の先には、もはや彼の知る面影どころか、まともな人の形すら残されていない。
惨劇が、回避できたなら。
こんな力を持っていなかったら。
制約など無かったら。
荒地となった草原で、ルシェイドは手を握り締めたまま、嘆き続けた。
そうすれば、目が覚めるんだって思う事ができたのに。
そう思うのは何度目だろう。
徐々に無くなっていく体温を感じながら、彼は硬く目を閉じて俯く。
握り締めた手のひらはもうすでに硬くなりはじめ、まるで人形のようだった。
朝には笑ってた。
一緒に町に行こうと約束をした。
それが果たされないと、知っていたけれど。
それでも、一緒に行きたかった。
「ごめん」
絞り出すような声で、彼が囁く。
硬く閉じた目は乾いて、涙のひとつも出てこない。
泣きたい、のに。
「ごめんね」
彼は繰り返す。
目の前で握り締めた手の先には、もはや彼の知る面影どころか、まともな人の形すら残されていない。
惨劇が、回避できたなら。
こんな力を持っていなかったら。
制約など無かったら。
荒地となった草原で、ルシェイドは手を握り締めたまま、嘆き続けた。
翠雨は思い切って聞いて見ることにした。
落ち葉が舞う日のことだった。
「お名前を、聞いてもいいですか?」
銀箭はちらりと翠雨を見て、また視線を外に戻した。
聞いてはいけなかったのだろうか、と翠雨が眉尻を下げて少し。
「――銀箭だ」
告げられたことに一瞬きょとんとして、翠雨は嬉しそうに微笑んだ。
落ち葉が舞う日のことだった。
「お名前を、聞いてもいいですか?」
銀箭はちらりと翠雨を見て、また視線を外に戻した。
聞いてはいけなかったのだろうか、と翠雨が眉尻を下げて少し。
「――銀箭だ」
告げられたことに一瞬きょとんとして、翠雨は嬉しそうに微笑んだ。