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何かいろいろ創作物を入れていこうと思います。広告変更してみた。
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 ゆっくりと力が抜けていく感覚。
 根幹をなす力はすでに次に渡してあったから、それに引きずられる形で残った力も抜けていっているのだと分かっていた。
 力がなくなれば死ぬ。
 それは、決まっていること。
 けれど。

「……シェセルディ」
 小さく呟く。
 呼びかけられた人物は身動きもせず背を向けたままだ。
 ぎり、と歯を食いしばって、力任せに抱き寄せる。
「どうして……! どうしてお前は俺を見ない!!」
 折れそうなほど華奢な身体に力を込めても、反応は返らない。
 今までにどれほど触れても、何を送っても、反応はなかった。
 絶望的な思いで項垂れる。

 わずかに力が抜けた腕から、するりとシェセルディが抜けだした。
 思わず顔をあげたアルジェンテウスの瞳をひたと見据え、シェセルディが右手を伸ばした。
 視線が絡んだことに、アルジェンテウスの胸が歓喜に震える。
 けれど、すぐに愕然として目を見開いた。
 額に触れたひやりとした指先の感触とともに、急激に力が抜けていく。
「……シェセルディ……!」
 名を、呼ぶ。
 何の感情も伺えない金の目に見つめられたまま、アルジェンテウスの意識は永遠に閉ざされた。

 伸ばした手に銀の髪が触れる。
 さらりとしたその感触を楽しみながら、目の前にいる人物に話しかける。
「シェセルディ」
 確かに名前を呼んだはずなのに、反応はない。
 頬に手を添えてこちらを向かせ、もう一度名前を呼ぶ。
 わかっているのか、シェセルディはぼんやりとした視線をこちらに向けただけで、何も言わなかった。
 頬に添えていた手を滑らせ、ゆるく抱きしめる。
 シェセルディは意に介さず、ゆらりと右手を上げた。
 周囲から霧のようなものが漂い、右手の先に集まっていく。
 けれど、形になる前にその右手を掴んだ。
 集まっていた霧はすぐに散っていった。
 邪魔をされたシェセルディが、わずかに顔を顰める。
「新しい世界なんてもういらないだろう?」
 不快げに顔を歪めたシェセルディに、触れるほど近くで笑う。

「俺はお前さえいれば、他には何もいらないんだ」
 子供のように無邪気に微笑みながら、アルジェンテウスは囁いた。

『白い翼を持つ異形の者が捕らえられた』
 そんな噂を聞いたのはこの世界に来て一週間ほどたった頃だった。
 手がかりになりそうなものが見つからなくて、早々に別の場所に行こうかと思っている時だった。
 自分の探している者かもしれない。
 違ったとしても、行ってみる価値はあるはずだ。
 逸る気持ちを抑えて、捉えたという場所へ向かう。
 町の外れの岩牢。
 此処からならそんなに遠くはない。

 不意に目の前で、鳥が一斉に飛び立った。
 それに気を取られた瞬間、地を揺する衝撃にたたらを踏む。
 地震、ではない。
 視線の先は岩牢の方角。
 そこから、土煙が上がっていた。
「……!」
 全速力でその方向に走る。
 間に合わないかもしれないと思いながら。
 
 辿り着いた時には、岩牢は粉々に破壊され、動くものは何もなかった。
 息を切らし、あたりを調べる。
 見つけたのは、一枚の羽。
 鳥の羽のようなそれを手にした瞬間、それが探していた者だということが分かった。
 遅かった。
 もう少しだったのに。
「……くそ……!」
 小さく吐き捨てて、彼もその場から消えうせた。

「ふむ。両目が見えんのか。それは不便じゃろうて」
 言って、彼は両手で頬を包み、額を合わせた。
 何も見えない暗闇の中、染み入るような低い声が不安を和らげていく。
 手のひらに触れるのは冷たい石の床だ。
 声と視力を奪われ、何とかたどり着いたのがこの町だった。
 気配で町、と知れるだけで、実際にはどこかわからない。
 動く体力も、気力もなくなって路地で蹲っていると、いきなり足音が響いた。
 無言でしばらく立っていたその人物は、不意に動くと彼の前に近よった。
 そして今、額をつき合わせている。
「じっとしておれよ」
 手のひらの温かさが、低い声が、全身に浸透していく。
「わしの、片目を貸してやろう。おぬしの声も戻しておく。唄えはせんがな」
 す、と額が離れる。
 それを追う様に目を開け、見えることに驚く。
 視界に入ってきた人物は、痛みを堪えるような、悲しそうな目をして彼を見下ろしていた。
「おいで。こんな田舎でも、路地裏は危険じゃからな」
 差し伸べられた手をとり、立ち上がろうとして、彼はそのまま意識を失った。

 ごと、と音を立てて竪琴が地面に落ちた。
 けれど彼にはそれを拾う余裕はない。
 苦痛に脂汗を浮かべる彼の左腕は、完全に折られていた。

「何、ソレ」
 苦痛にあえぐ アリウスに、冷ややかに声を落とす。
「アリウス……!」
 ど、と膝を突いた彼に走り寄ろうとして、ぎくりと凍りつく。
 いつの間にか、彼が近くに立っていた。
 ひょいとアリウスが落とした竪琴を拾う。
 その動作さえ優雅で、つい見とれてしまう。
「僕に、敵対しようっていうのかい? 琴がなければ無力な君が!」
 あざ笑うように竪琴を掲げる彼に、アリウスが厳しい視線を向ける。

「ねぇ、君。その目はどうしたの?」

 静かに、彼が問う。
 アリウスがぎくりと体を強張らせた。
「おかしいよねぇ? 君の両目は僕が持っているのに?」
 ゆっくりと一歩、アリウスへ近づく。
 触れるほど近くから見下ろし、瞳を覗き込む。
 隻眼の、その瞳。
 と、彼が唇の端を上げた。
 残酷な喜悦に満ちた、凄絶な笑み。
「あぁ……、そうかぁ。――彼の目だね?」
 そ、とひどくやわらかい手つきで、アリウスの頬をなでる。
 顔は笑みの形なのに、抗うことを許さない迫力があった。
「……ッ……!」
 痛みを堪え、アリウスが右手で彼の手を払う。
 一瞬彼らの視線が合った。
 次の瞬間、ばきんと音を立てて右手が折れた。
「――――ッ!!」
 アリウスが悶絶する。
 背を丸めて耐える彼を見下ろしながら、これみよがしなため息をつく。
「君は馬鹿だな。僕に逆らっても無駄だって、まだわからない? ――まぁでも許してあげるよ。……面白い、土産があることだしねぇ?」
 視線が、エクエスへと移される。
「え……」
 見つめられて足がすくむ。
 心の奥の方で警鐘が鳴り響いている。
 逃げなければ。
 けれど体は魅入られたように動かない。
 彼が近づくのを、ただ見ているしかできない。
 彼との距離はもはや触れられるほど近い。
 手が、伸びる。

「――エクエスッ!」
 アリウスの切羽詰った声が響く。
 視界に広がる白い肌を見ながら、はっきりと名前を呼ばれたのは初めてだな、とぼんやり考えていた。

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プロフィール
HN:
沖縞 御津 または 逆凪。
趣味:
絵描き文書き睡眠。
自己紹介:
のんびり人生万歳。
1日20時間ほど寝れるんじゃないかと最近本気で思う。
でもこの頃睡眠時間が1~6時間と不規則気味。ていうか足りない。
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