何かいろいろ創作物を入れていこうと思います。広告変更してみた。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
彼女は花のように笑った。
目を閉じたその寝顔を眺めながら、彼は手を取る。
小さな、白い手。
少しやつれた頬も白い。
するりとした感触のその手をゆっくりと撫でていると、彼女は僅かに身じろぎをして目を開いた。
「起きた?」
いつもと同じように、と微笑むと、彼女は僅かに目を細めて細く息を吐いた。
「……夢を、見てた……」
「楽しい夢?」
儚い声に、囁くような声で問うと、彼女は一旦目を閉じて言った。
「……そう、ね……。楽しかったわ。皆で、草原へ遊びに行くの。空は晴れてて、皆笑顔で……」
「お弁当持って?」
彼女は嬉しそうに微笑んで、視線を彼に向けた。
「ええ。張り切って作っちゃうもの」
「それは楽しみだな」
くすくすと二人で笑いあう。
ふ、と彼女の視線が遠くなる。
「行きたいわね……」
「行けるさ。……行こう、皆で」
握った手に少し力を入れて、彼が言う。
込められたのは切実な願い。
きょとんと目を開いた後、彼女は彼の顔を見て笑った。
彼の一番好きな笑顔で。
-------------
一つの墓の前で彼は、項垂れたまま立ち尽くしていた。
小さな子供が、不思議そうに彼を見上げる。
「かあさまは?」
問いかける子供に答えられず、彼は膝を突くと子供を抱きしめた。
強く抱きしめる身体が、微かに震えている。
「とうさま、ないてるの?」
抱きしめられた子供は首を傾げて、自分を抱きしめる彼に小さな腕を回した。
「なかないで、とうさま」
子供は彼の服を握り締め、肩口に顔を埋めた。
ごめん、と彼が囁く。
約束を守れなかった。
一緒に行こうといったのに。
行けると言ったのに。
彼女はもう二度と、彼らに会うことはできないのだ。
抑えきれない嗚咽を宥めるように、子供が背を撫でた。
目を閉じたその寝顔を眺めながら、彼は手を取る。
小さな、白い手。
少しやつれた頬も白い。
するりとした感触のその手をゆっくりと撫でていると、彼女は僅かに身じろぎをして目を開いた。
「起きた?」
いつもと同じように、と微笑むと、彼女は僅かに目を細めて細く息を吐いた。
「……夢を、見てた……」
「楽しい夢?」
儚い声に、囁くような声で問うと、彼女は一旦目を閉じて言った。
「……そう、ね……。楽しかったわ。皆で、草原へ遊びに行くの。空は晴れてて、皆笑顔で……」
「お弁当持って?」
彼女は嬉しそうに微笑んで、視線を彼に向けた。
「ええ。張り切って作っちゃうもの」
「それは楽しみだな」
くすくすと二人で笑いあう。
ふ、と彼女の視線が遠くなる。
「行きたいわね……」
「行けるさ。……行こう、皆で」
握った手に少し力を入れて、彼が言う。
込められたのは切実な願い。
きょとんと目を開いた後、彼女は彼の顔を見て笑った。
彼の一番好きな笑顔で。
-------------
一つの墓の前で彼は、項垂れたまま立ち尽くしていた。
小さな子供が、不思議そうに彼を見上げる。
「かあさまは?」
問いかける子供に答えられず、彼は膝を突くと子供を抱きしめた。
強く抱きしめる身体が、微かに震えている。
「とうさま、ないてるの?」
抱きしめられた子供は首を傾げて、自分を抱きしめる彼に小さな腕を回した。
「なかないで、とうさま」
子供は彼の服を握り締め、肩口に顔を埋めた。
ごめん、と彼が囁く。
約束を守れなかった。
一緒に行こうといったのに。
行けると言ったのに。
彼女はもう二度と、彼らに会うことはできないのだ。
抑えきれない嗚咽を宥めるように、子供が背を撫でた。
強い衝撃を感じた。
左腕。
視線を向けると、二の腕から血が流れていた。
切られた。
けれど、この程度ならまだ問題は無い。
他の手足はまだ動く。
休んでなど居られない。
切り伏せろ。
殺せ。
動くものが何一つなくなるまで。
目の前には、彼と同じような年の少年。
考えるな。
あれは、倒すものだ――。
気がついたら、立っているのは彼ひとりだった。
周りに動きは無い。
どこか遠くで、歓声が上がっているのが聞こえる。
両手どころか全身血まみれだ。
手が滑って、持っていた剣を落とす。
荒い呼吸と、薄くなっていく意識の中で、彼の中の何かが壊れていく音がした。
左腕。
視線を向けると、二の腕から血が流れていた。
切られた。
けれど、この程度ならまだ問題は無い。
他の手足はまだ動く。
休んでなど居られない。
切り伏せろ。
殺せ。
動くものが何一つなくなるまで。
目の前には、彼と同じような年の少年。
考えるな。
あれは、倒すものだ――。
気がついたら、立っているのは彼ひとりだった。
周りに動きは無い。
どこか遠くで、歓声が上がっているのが聞こえる。
両手どころか全身血まみれだ。
手が滑って、持っていた剣を落とす。
荒い呼吸と、薄くなっていく意識の中で、彼の中の何かが壊れていく音がした。
視界が回る。
否。
回っているのは本当に俺か。
自分の立っている場所さえ不確かで、俺はその場で踏鞴を踏んだ。
思考がまとまらない。
体が重い。
何だろうこの吐き気は。
「ルベア」
名前を呼ばれた。
ここ何日かで随分聞きなれた声だ。
重い目蓋を無理やりこじ開けると、目線より随分下に茶色い頭が見えた。
獣の、顔。
「……オルカーン」
確かめるように彼の名を呼び、背後の幹に背を預ける。
「やっぱり休んでいこう。顔色が酷く悪いよ」
落ち着かなさげに尻尾を上下させ、オルカーンが言う。
「……問題ない」
「駄目だ。次に休めるところに行くまで体が保つかわかんないだろ?」
きっぱりと言い、押し付けるように身体を摺り寄せる。
その勢いに抗えず、ルベアはその場に腰を下ろした。
立っているよりは少しマシになった視界で、オルカーンが警戒するように周囲を見回す。
「何かいるのか」
一通り見た後で、オルカーンは首を傾げて尻尾を一度だけ振った。
「この近くには誰もいないようだよ。何かあったら起こすから、それまで寝てなよ」
そう言って身体を押し付ける。
ふかふかしたその手触りに、ルベアはゆっくりと意識を手放した。
脱力した身体を視線だけで振り返って、オルカーンはこっそりとため息をつく。
こんなになるまで無理しなくても良いだろうに。
彼は、他人に頼ろうとはしない。
それは知り合って程なく、気づいたことだった。
「まぁ、こういう時ぐらいは頼って欲しいけどね」
ぽつりと呟き、背中の温かさを感じながらオルカーンも目を閉じた。
否。
回っているのは本当に俺か。
自分の立っている場所さえ不確かで、俺はその場で踏鞴を踏んだ。
思考がまとまらない。
体が重い。
何だろうこの吐き気は。
「ルベア」
名前を呼ばれた。
ここ何日かで随分聞きなれた声だ。
重い目蓋を無理やりこじ開けると、目線より随分下に茶色い頭が見えた。
獣の、顔。
「……オルカーン」
確かめるように彼の名を呼び、背後の幹に背を預ける。
「やっぱり休んでいこう。顔色が酷く悪いよ」
落ち着かなさげに尻尾を上下させ、オルカーンが言う。
「……問題ない」
「駄目だ。次に休めるところに行くまで体が保つかわかんないだろ?」
きっぱりと言い、押し付けるように身体を摺り寄せる。
その勢いに抗えず、ルベアはその場に腰を下ろした。
立っているよりは少しマシになった視界で、オルカーンが警戒するように周囲を見回す。
「何かいるのか」
一通り見た後で、オルカーンは首を傾げて尻尾を一度だけ振った。
「この近くには誰もいないようだよ。何かあったら起こすから、それまで寝てなよ」
そう言って身体を押し付ける。
ふかふかしたその手触りに、ルベアはゆっくりと意識を手放した。
脱力した身体を視線だけで振り返って、オルカーンはこっそりとため息をつく。
こんなになるまで無理しなくても良いだろうに。
彼は、他人に頼ろうとはしない。
それは知り合って程なく、気づいたことだった。
「まぁ、こういう時ぐらいは頼って欲しいけどね」
ぽつりと呟き、背中の温かさを感じながらオルカーンも目を閉じた。
「驚いてくれるかな」
「驚いてくれるよ」
「その為に、頑張ってきたんだもん」
抑えきれない笑みを交わしながら、子供たちは机の影に身を潜める。
「こら、静かにしないと駄目だよ」
「見つかっちゃうね」
口元に指を当ててまた笑う。
ふと、扉の向こうから足音が響いた。
「来た」
「来たね」
しん、と先ほどまでの笑い声を抑え、扉の向こうを伺う。
足音は扉の前までくると少しとまり、徐に扉を開いた。
入ってきたのは、白い髭を蓄え、少し腰の曲がった老人だった。
呆れたような苦笑を浮かべながら、彼は腰に手を当てて彼らを呼んだ。
「三人とも、出ておいで」
一拍おいて、子供たちがひょこりと顔を見せる。
「あんな大規模な魔法を使うなんて、何かあったらどうする気だね」
言葉は叱っているが、表情は柔らかく、声にも怒気は無い。
子供たちは僅かに身を乗り出して抗議した。
「だって、長に見せたかったんだもの!」
「そうだよ! だって今日は」
「長の……」
老人は困ったように微笑んで、両手を広げた。
それを見て、子供たちが駆け寄っていく。
「……そうか。優しい子だね。君たちは」
駆け寄った子供たちが老人にしがみつく。
「けれど。年寄りに心配かけるもんじゃないよ」
子供の一人が、そうっと顔を上げる。
「……うれしくなかった?」
不安そうな彼の顔を見て、老人はきょとんとした後に破顔した。
「そんな事はない。とても、嬉しくて誇らしかったよ」
その言葉に、不安そうだった子供たちは一斉に老人を見上げ、笑顔をこぼした。
「驚いてくれるよ」
「その為に、頑張ってきたんだもん」
抑えきれない笑みを交わしながら、子供たちは机の影に身を潜める。
「こら、静かにしないと駄目だよ」
「見つかっちゃうね」
口元に指を当ててまた笑う。
ふと、扉の向こうから足音が響いた。
「来た」
「来たね」
しん、と先ほどまでの笑い声を抑え、扉の向こうを伺う。
足音は扉の前までくると少しとまり、徐に扉を開いた。
入ってきたのは、白い髭を蓄え、少し腰の曲がった老人だった。
呆れたような苦笑を浮かべながら、彼は腰に手を当てて彼らを呼んだ。
「三人とも、出ておいで」
一拍おいて、子供たちがひょこりと顔を見せる。
「あんな大規模な魔法を使うなんて、何かあったらどうする気だね」
言葉は叱っているが、表情は柔らかく、声にも怒気は無い。
子供たちは僅かに身を乗り出して抗議した。
「だって、長に見せたかったんだもの!」
「そうだよ! だって今日は」
「長の……」
老人は困ったように微笑んで、両手を広げた。
それを見て、子供たちが駆け寄っていく。
「……そうか。優しい子だね。君たちは」
駆け寄った子供たちが老人にしがみつく。
「けれど。年寄りに心配かけるもんじゃないよ」
子供の一人が、そうっと顔を上げる。
「……うれしくなかった?」
不安そうな彼の顔を見て、老人はきょとんとした後に破顔した。
「そんな事はない。とても、嬉しくて誇らしかったよ」
その言葉に、不安そうだった子供たちは一斉に老人を見上げ、笑顔をこぼした。
言葉が、頭の中で繰り返される。
自分を諌める言葉だ。
復讐など虚しいだけだと。
使い古された言葉で。
経験したものにしか持ち得ない重みを持って。
ゆっくりと、目を閉じる。
思い出されるのはいつもの光景。
赤に染まる視界。
動かないモノ達。
昨日まで笑っていた者を、情け容赦なく、それこそ笑いながら奪った者。
どうして許せよう?
「……今更だ」
吐息が漏れる。
復讐を心に決めてどれだけの年月が経ったのか、もはや覚えていない。
胸の内を激しく噛む憎悪に、感情が擦り切れていく。
「ルベア、早く行こう」
視線の先で、オルカーンが心配そうにこちらを見ながら尻尾をぱたりと振った。
「……今行く」
それで良いの?
そう問う声をあえて振り切るように、ルベアはその場から離れた。
自分を諌める言葉だ。
復讐など虚しいだけだと。
使い古された言葉で。
経験したものにしか持ち得ない重みを持って。
ゆっくりと、目を閉じる。
思い出されるのはいつもの光景。
赤に染まる視界。
動かないモノ達。
昨日まで笑っていた者を、情け容赦なく、それこそ笑いながら奪った者。
どうして許せよう?
「……今更だ」
吐息が漏れる。
復讐を心に決めてどれだけの年月が経ったのか、もはや覚えていない。
胸の内を激しく噛む憎悪に、感情が擦り切れていく。
「ルベア、早く行こう」
視線の先で、オルカーンが心配そうにこちらを見ながら尻尾をぱたりと振った。
「……今行く」
それで良いの?
そう問う声をあえて振り切るように、ルベアはその場から離れた。